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2014年6月12日 (木)

『谷川雁 永久工作者の言霊』

『谷川雁 永久工作者の言霊』松本輝夫(平凡社新書)

Tanigawagan 谷川雁という名は、メタファーを駆使した詩人、筑豊のサークル村運動、大正炭鉱闘争、(吉本隆明・村上一郎とともに)「試行」創刊同人などとして語られることが多い。いずれも一九六〇年代前半までの話だ。
 そのあと世に突然その名が浮上したのは、七一年のテック労働争議(刑事弾圧)に経営者として関わっていたことがニュースとして否定的にとりあげられたときだった。そして以降は再び消えてしまった。彼の名を知る人にとっては、そんなふうに意識の水面で浮沈していたのが一般的だったと思う。

 しかし、そんな見方をがらりと改めさせてくれるのが『谷川雁 永久工作者の言霊』。筑豊を離れたあとの「沈黙の一五年」と言われた時期のテック(のちのラボ教育センター)での活躍、さらにテックを追われたあとの活動に光をあて、東京へ出てからの活動が、筑豊での運動と通底する志をもったものであることを明らかにしている。

 著者は谷川雁を慕いテックに入ったものの、職場では労使関係で対峙し、またのちに雁をテックから追放せざるをえなかった中心メンバーでもあった。しかし本書では、彼をこき下ろすのではなく、といって絶対視するのでもなく、適度な距離を保ちながら、しかしその思想性については敬愛し、彼の魅力と志をていねいに描いている。近年谷川雁研究会を立ちあげて主宰し、研究を続けてきた著者の取材力と筆力が冴える。
 新書判なので、原稿をかなりカットせざるをえなかったようだが、逆にコンパクトゆえに、雁の生涯の輪郭が鮮やかに示されている。若い世代にも近づきやすいはず。
 ここで掘り起こされた雁さんのフレーズに接すると、たしかに六〇年代後半の全共闘運動にも少なからぬ影響を与えていたのだな、と教えられる。
 読み終えて思うのは、雁さんはよき対立者、理解者、後輩に恵まれたなあ、もって瞑すべし、というところ。

 「三・一一」で現代文明が根底から揺らぎ始めた今こそ、学ぶべき知恵、参考にできる手がかりが雁さんにはたくさん秘められていると、本書は強調する。現代の行きづまりを打開する力をもっていると評価を加えている。たとえば、戦争と敗戦によってさえも辛うじて残り続けた縄文以来の「日本の村と自然生態系」が、その後のわずか数十年の高度成長によってトドメをさされて一挙に解体した、と見抜いた雁の彗眼を指摘する。たしかに「独創的な高度経済期批判」である。

 さて著者は、谷川が「下部へ、下部へ、根へ、根へ、」と歌い、下降しながら「存在の原点」、「万有の母」を探求した試みに、「縄文の心」を重ねている。
 かつて「試行」の仲間だった吉本隆明は、上にいくこと(世界の高次化)と下にいく(アフリカ的段階に降りる)ことが同じであるような方法を追求した。しかし、晩年の表現をみるかぎり、残念ながら引き裂かれていた。あえてそれをさらけ出したところに、吉本さんの真摯さをみることができる。
 吉本と異なり雁さんは、「無名性」の「集団創造」という方法によって、「下部へ、根へ、」の「原点」を探ろうとした。いや、そういう志向性自体に原点をみようとしたのかもしれない。
 ひとことだけ感想を添えれば、吉本とは異なるその作業もまた難しいことにおいては変わらないのではないか。それは「問いの立て方」に関わる。そもそも「工作者」「無名性」「根」「存在の原点」という立て方……。私自身の課題でもあり、別の機会にさらに論じてみたい。

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