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2013年3月21日 (木)

『流砂』6号 【追悼特集】吉本隆明その重層的可能性

Rusa6  吉本隆明について追悼特集した『流砂』6号(発売=批評社、共同責任編集栗本慎一郎+三上治)が発行された(定価1200円+税)。

 特集タイトルは、「吉本隆明その重層的可能性」。
 小生も寄稿させていただいた。
 『吉本隆明と小林秀雄 ~「第二の敗戦期」と「現代の超克」~』
 晩年の吉本さんにいったい何が起きていたのか、との問いかけから、吉本さんの小林秀雄評価をめぐって論じてみた。

雑誌全体の構成は以下のとおり。

【構成】
三島由紀夫と吉本隆明…………………………三上治
革命的思考と吉本隆明の思想
―.左翼的思考の閉塞を突き破る  …………山本哲士
吉本隆明の哲学的思考…………………………新田滋
吉本隆明の彼方へ
 ―もうひとつの時間のゆくえ―……………宮内広利
吉本隆明と原発………………………………中村礼治
脱原発と社会主義の構想への探究 
 ―吉本隆明『「反核」異論』について―……山家歩
吉本親鸞論への問い.―宮沢賢治論から―…伊藤述史
吉本隆明の西行論………………………………高岡健
世界視線としての放射線の夢と胎生防御装置
 ―吉本隆明なるものを巡る私にとっての諸問題―
  ………………………………………………柴崎明
吉本隆明のまなざし、死生観………………佐竹靖邦
大衆よりの自立…………………………………柏木信
吉本隆明へのアプローチ……………………平田重正
吉本思想との出会い―吉本さん追悼………古賀英二
吉本隆明と小林秀雄
 ―「第二の敗戦期」と「現代の超克」…とよだもとゆき
問われ続けた《革命とは何か》………………菅原則生
〈関係・資質・異和・成熟〉という問題……高橋順一
■【社会運動の空間】
循環型コミュニティーにトライ
―鴨川から―……………………………………田中正治
■連載
「エチカ.」―倫理学第五部
知性の能力あるいは人間の自由について……木畑壽信
傾注とポイエーシス[六]
BNE.―半透明のリテラシーから水の透明性へ 
………………………………………大山エンリコイサム

2013年3月16日 (土)

西武HDとサーベラス

~投資者の利益と「企業価値」~

 西武鉄道やプリンスホテルを傘下にもつ西武ホールディングス(HD)の再上場をめぐって、同社と筆頭株主の投資会社、アメリカのサーベラスとの間で対立が泥沼化している、と新聞が伝えている。サーベラスがTOBをかけて出資比率を三分の一超にして経営方針を変えて「企業価値」を高めて、再上場時の「上場益」を大幅に増やしたい狙いのようだ。ゆえに不採算部門の切り捨てなどをサーベラスは迫る。

 具体的には、①西武多摩川線、山口線、秩父線など不採算路線の廃止 ②特急料金の引き上げ ③プリンスホテルのサービス料金を上げる(10%を20%へ) ④西武ライオンズの売却 ⑤JR品川駅周辺の再開発案の策定などを挙げているようだ。
 おおむねエンドユーザの生活の足を切り捨てるか、その経済負担をもっと高くしなさいというものだ。②と③などじつに「セコイ」というしかない。これが、「企業価値」を高めるための投資会社メンバーが、「実物投資空間」から利益をひねり出すために思い付いた方法なのだ。問題は極めて多いが、なかでも路線の廃止というリストラは、その沿線の住民にとっては重大な問題だろう。

 そもそもの発端は10年ほど前の有価証券報告書の虚偽記載問題にまで遡るのだろうし、西武HDにも不動産なども含めさまざまな経営上の思惑もあるだろうけれど、少なくとも現経営陣が「地元に根ざした鉄道会社として、路線廃止は考えられない」との見解はどうあれまっとうだ。

 サーベラスがとりまとめる投資家のほとんどはアメリカはじめ海外の人だろうし、とにかく「目先の利益」が得られば、異国の一地域の生活路線なんてどうだろうが関係のないことだ。あるいは特急料金やホテルサービス料をちょっと値上がりさせたという事実を作り出せばよいのだろう。それが当該企業や、その商品・サービスを購入している人たちにとっての影響や、さらに企業自体の数字に中長期的にどんな影響を与えるかは、考慮外となる。売却益取得後のことなぞ関係ない。上場という瞬間に「企業価値」が上がっていれば、どんな方法でもよい。目先の利益(上場益)を増大させるためには、その鉄道を利用する地域住民の生活など切り捨てろ、という。端的にいえば、実体など関係ない、投資(貨幣)がとにかく増えて戻ってくればよい、ということだろう。

 こうした株主至上主義を支持する人が国内にもいるようで、サーベラスは、日本の元金融庁長官、元日本郵政公社総裁らを取締役として推薦するという。
 高めたい「企業価値」とは、いったい誰にとっての、どういう価値なのか。わたしたちは誰もが「資本の論理」から免れることはできないけれど、リーマンショック以降も、構造はまったく変わっていない。
 ちなみにサーベラスとはギリシャ神話の「地獄の番犬ケルベロス」の英語読みで、「底なし穴の霊」を意味することを、ウィキペディアで教えられた。

2013年3月13日 (水)

「PLANETS」vol.8が投げかけていること

Planets8  人文・社会科学系の新刊売り場には場違いと感じられる、異質な表紙の雑誌が平積みされている。表紙モデルは、AKB48の横山由衣ちゃん。雑誌は「PLANETS」第8号。
 AKB48のメンバー名を挙げるとなると、前田敦子、大島優子、篠田麻里子、板野友美、高橋みなみくらいしか浮かんでこない。なにせ最近は、ますます古典にますますはまりこんでいる。当然この子も名前も知らなかった(ちなみにわたしはAKB48よりは、きゃりーぱみゅぱみゅのほうに新鮮な驚きを感じている)。

 さて、AKBの子が表紙を飾るこの雑誌、しかし、あるいは、ゆえに、というべきか、そうとうに密度が濃く、わたしのように頭が凝り固まりがちな世代には挑発的なほどの刺激を与えてくれる。今一番元気な雑誌といっても過言ではないと思う。
 丁寧な編集とその充実度、ジャンルの多岐性において、とても優れている。カラーも多い232頁の雑誌で1800円(本体)というかたちを、既存版元に寄らずに自力で刊行しつづけているのも驚きだ。
 もちろんハード面だけではない。雑誌の鋭いコンセプトは、座談、鼎談、インタビューで主に構成された全ページに貫かれている。

 この号の特集タイトルは「僕たちは<夜の世界>を生きている」。「夜の世界」とは、サブカルチャーやインタネット環境(世界)を指している。政治や経済の「昼の世界」がすでに終わっているなかで、この「夜の世界」こそ、「自由と生成のフロンティア」だと同誌は高らかに宣言する。
 戦後的な社会システムが機能しなくなったなかで、ポスト戦後的社会システムが構築されていない。否、その青写真すらも示されていない。「僕たちはこの20年間、ずっと放置されてきた日本のOSを今こそアップデートしなければならない、そのための手がかりは既にこの日本社会の内部にあふれている」。それは「昼の世界」でしばしば語られる「ものづくり」や「市民社会」には存在しない。サブカルチャーやインターネット世界にこそ存在する、と謳う。
 語られる分野は、政治(ポピュリズム)、社会、経済、原発、ソーシャルメディア、ゲーム(ゲーミフィケーション)、ファッション、性、子育て、社会起業、NPO活動など、幅広いジャンルが網羅され、いま注目を集める若手の論客たちや、IT産業やNPO活動をしている若者の考えが示されている。

 責任編集者宇野常寛氏の発言を少し挙げてみよう。

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「20世紀までの西洋近代的価値観では「エリート」と「大衆」、「固有名」と「匿名」、「目的」と「手段」、「現実」と「虚構」といたような二元論的にイメージされていた世界観」を、一元的な想像力によって置き換える……。
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 戦後社会の建前的な精神がすでに機能しない現状を踏まえ、こう語る。

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……、匿名社会的・分人主義的・キャラクター的なるものを基礎に、それがかつてのような暴走や「無責任の体系」的な体制に陥らない状態でそのまま機能させるにはどうしたらいいかを考えるほうが、長期的には現実的なのではないでしょうか。
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 わたし自身の興味に引きつけて一例を挙げれば、「人間的」と「動物的」という、近代主義的概念への疑義を根柢から提出している(いくつかの対談、鼎談で現にそのように語られている)。「欲望」か「反欲望(禁欲)」か、という近現代の枠組みをどう破るか、と受けとめることができる。
 それは、おそらく失われた20年でのOS更新にとどまらず、近現代(的西欧知)のとらえなおしにまで及ぶ質を含んでいる。その可能性を日本のサブカルチャーやインターネット世界の現在にこそ探ろうとする。しかもそこにこそ「楽しさ」があることを、(ルサンチマンによらず)自らが生きるなかで示したいというところに、従来の「目的」と「手段」を分けるスタイルを超えた新しさもみえる。わたしのような世代も、こういうテーマを避けて「現在」を語ることはできない。

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