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2011年5月 1日 (日)

『「絵のある」岩波文庫への招待』

 京都に仮住まいしていたとき、百万遍にある思文閣美術館で「谷崎潤一郎と京都」という展覧会を見たことがある。初夏の日曜日だったか、たしかバスで出かけた。
 小さな美術館でしかも人影まばらな室内。潤一郎の妻松子の連れ子の妻(渡辺千萬子)と、谷崎のフェティッシュな交流が垣間見られたのが印象に残っていた。彼女の足のサイズとか型についてのやりとりがあったと断片的に記憶している。

Iwanamibunko  そんなことをふと想い出したのは、坂崎重盛著『「絵のある」岩波文庫への招待』を開いていたときだった。「絵のある」岩波文庫の数々を自由気ままに紹介しているエッセイ集で、シャミッソー『影をなくした男』、『カフカ寓話集』の次のページを開くと、谷崎潤一郎『蓼喰う虫』、『小出楢重随筆集』の二冊がテーマになっていた。
 そこで坂崎さんは渡辺千萬子さんについて触れていた。谷崎から自分の頭を踏んでくれと頼まれて千萬子さんがそうしたことがあるという件が引用されていた。「下世話話大好きな私」と坂崎さんは記しているが、私もこういう話は嫌いではない。
 坂崎さんの筆は、ここから画家小出楢重と谷崎の創作上のからみへ展開していく。引用された挿絵も改めて眺めると楽しい。

 ここで、『瘋癲老人日記』の颯子のモデルともいわれる渡辺千萬Hakusasonsou 子さんが、画家橋本関雪の孫娘であることを教えられた。橋本関雪といえば、大正・昭和に活躍した日本画家で、銀閣寺近くに居を構え、邸宅は今は白沙村荘(橋本関雪記念館)として公開されている。わたしも何度か散策したことがあるし、仕事でも一度使わせていただいたことがあった。銀閣寺や参道に近いわりには、喧噪はほとんど耳に入らない静かな庭だった。たしか松竹梅だったか、宇野重吉が登場する日本酒のCMでも舞台になったところ。

Cafe_2  調べていたら、渡辺千萬子さんは後に、哲学の道に「アトリエ・ド・カフェ」を開いたという。東山を散策すると必ずといってよいくらい入る店だったが、そこが千萬子さんの店とは知らなかった。拙著『ほっこり京都時間』で紹介したことがある。その店も数年前に経営が変わってしまったが、骨格は変わらず今に残されている。昨年末京を訪ねたときも、その店で体を暖めた。

 『「絵のある」岩波文庫への招待』にあった一文から、思わぬところに発展したが、「絵のある」岩波文庫をキーワードにして 読書の楽しみをさまざまな角度から教えてくれる一冊。分厚いけれど、山本容子さんの絵で飾られたカバーもうれしい。(芸術新聞社刊)

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