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2006年7月16日 (日)

自由と恣意

 昨秋につづき秋田県大館へ。
 大館にはいくつか金山があったよう。その中でも知られるのが大葛金山だ。比内のお寺さんに聞くと、大葛の町にはかつて映画館が3軒もあったそうだが、栄えたのは昭和20年ごろまでで、いまはその面影はないよう。
P1010068   米代川沿いの比内には、お寺がいくつか並んでいる。浄土宗、曹洞宗、浄土真宗等。みな、金山の仕事をしに集まってきた人たちのために設けられたものだろう(写真は比内にある地主門。明治中頃に建てられたもの)。
 訪ねたお寺さんは、400年以上の歴史を刻むらしいが、戊辰の役で寺は焼けたという。

 帰りに大館駅に出る。かつて賑わった商店街はさびれ、半分以上店舗のシャッターが降ろされている。中心にあったデパートの店じまいも影響しているよう。ひとの動きは、他の町と同様、むかしながらの商店街から郊外店にクルマでのショッピングへと移行している。

 帰途の車中で、岩井克人さんの『二十一世紀の資本主義論』を手にし、書名ともなる冒頭の論文を読む。
 グローバル市場経済とその危機について書かれている。岩井さんの論は、経済に疎い私にはいつも刺激に満ち、いろいろと教えてくれる。
 ここでは、とくに「投機」についてのとらえ方がとてもラディカルだ。投機とは、市場経済にとってはもっとも本質的な活動であり、「市場経済のなかで生産し交換し消費するすべての人間が、すでに全面的に投機家なのである」と。じつにみごとな断言だ。

 ただ、一点、どうしても口を挟まざるをえないことがある。論文の最後に「自由」について触れているところ。
 共同体的社会も社会主義国家も、多くはすでに遠い過去のものになったと振り返り、「ひとは歴史のなかで、自由なるものを知ってしまったのである」とし、こう記す。

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自由とは、共同体による干渉も国家による命令も受けずに、みずからの目的を追求できることである。資本主義とは、まさにその自由を経済活動において行使することにほかならない。資本主義を抑圧することは、そのまま自由を抑圧することなのである。 
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 岩井さんはここで「自由」ということばを使う。そこにためらいがあるようにはみえない。あるいは、面倒だからてっとりばやく使っているとも思えない。たぶん真面目に使っているのだろう。
 でもいったい「自由」と言ってよいのだろうか。
 岩井さんの言うとおり資本主義は、「資本の無限の増殖を目的」としている。すると、そこでひとは、資本の無限自己増殖の舞台に立たされ、ただただ恣意的に振る舞うことを強いられているだけだ、そうとらえるべきではないのだろうか。

 資本制のもと、貨幣さえ手にすれば、気ままに恣意的に振る舞うことができる、というだけにすぎないのではないか。恣意的であるように強いられているにすぎないと。

 なにも「社会主義」を対置したいのではない。それはすでに前世紀半ば、少なからぬひとの眼にとんでもないものと映りはじめ、だからこそ前世紀末までに資本制の前に倒れている。
 しかし、少なくともいまを「自由」であると屈託なく認識していいのだろうか。
 恣意性すら禁じられる社会に比べれば、恣意的に振る舞うことができることは貴重であり、だからこそ、“欲望”が「社会主義」体制を崩壊させたとも言える。
 だが、止まることない自己増殖マシンの巨大舞台上で、不断に突き動かされて恣意的であらざるをえないというだけのことではないのか。「自由」というより、恣意的であるように強いられているというだけでは。
 そういう認識から出発することが求められているのではないだろうか。少なくともそういう視点ももっておくべきではないのだろうか。あるいは、岩井さんにとってはそれは戯れ言にすぎないと黙する断念が秘められているのだろうか。経済学は、すでにこれ以上の回答はないと極めているのだろうか。

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