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2006年6月 3日 (土)

『昭和ジャズ喫茶伝説』

Jazzkcafe

 前回カフェの話題だったので、引き続き。
 ちらっと前回名前を出した平岡正明さん。彼が昨年出版した『昭和ジャズ喫茶伝説』(平凡社)。吉本隆明さんあたりには、太田竜、竹中労の各氏とともに、トリオで酷評された平岡正明さんの本だ。彼の世界窮民革命論だかなんだか、そういうのには到底ついていけなかったけれど、ジャズ喫茶について書かれた今回の本は、なかなか読ませてくれる。
 昭和を駆け抜けた、都内及び近郊のジャズ喫茶の名がずらりと並んでいる。その名に絡めて、荒れた時代の交友とエピソードが平岡節で語られている。

 新宿にはたくさんのジャズの店が散らばっていた。「」「DIG」「木馬」「ぴざーる」「ニュー・ポニー」「タロー」などたくさんの名前が挙がっている。早稲田では「もず」の名が。戸塚二丁目にあったが、わたしは一、二度しか入ったことはない。
 高田馬場は「イントロ」と「マイルストーン」。ともによく足を運んだ店が登場する。 神保町の「」には古書店帰りによく寄った。

○「スイング」「イトウ」

 そして水道橋駅脇の路地にあった「スイング」。デキシージャズの店。平岡さんは飯田橋駅脇と書いているが、たしか水道橋だったはずだ。「スイング」を教えてくれたのは、オールドジャズが好きだった学生時代の友人だが、その彼は少し前、亡くなった。フリーで徹夜仕事をしていて無理をしすぎたのだろうか、心筋梗塞だった。残念なことだ。「ミントン・ハウスのチャーリー・クリスチャン」のレコードを教えてくれたのも彼だった。
 四谷といえば、いまも続く(場所は変わったが)「いーぐる」。ついでに、そのころあったサンバの店「サ・シ・ペレレ」の名も登場している。

 平岡さんは都内の店はほとんどと踏破しているようだ。これはなかなかできることではない。
 下町も登場する。日暮里の「シャルマン」。日暮里駅から進み、谷中銀座への石段を下りきるあたりにあった。そして上野の「イトウ」。池之端の仲町通り、中学時代の友人の酒屋があったすぐ近く。
 このあたりになると、新宿や渋谷あたりを徘徊している、いわゆるジャズマニア連中は出向いたことがないに違いない。わたしはもともと上野池之端に棲息していたので、ときどき「イトウ」に入った。蛍光灯の灯りが暗めの店で、晩年は歳を重ねた奥さんがレジの前に座っていた。私語が禁止されていたのだったか、話し声はまず聞こえなかった。
 ジャズの店ではないが、池袋では「ネスパ」まで登場する。待ち合わせによく使った店だ。

○「スカラ座」「クラシック」

 ヘェーっとびっくりしたり、教えられる話も少なくない。
 篠田正浩監督の『乾いた花』。若き篠田さんの傑作だ。原作は石原慎太郎、音楽は武満徹の各氏。池部良さん扮する博徒が、山茶花究扮する敵組長を刺殺するのは名シーンだった。その舞台に使われたのは、新宿のクラシック喫茶「スカラ座」だと、平岡さんはいう。ヴェルディの曲が流れるなか、店の階段を上がって池部さんが身を寄せて山茶花さんの腹を刺すシーン、そのスローモーション映像は、じつにみごとだった。

「越後妻有大地の芸術祭」を総合コーディネートするアートディテクター・北川フラムさんの名も、突然登場する。第二次テック闘争で、平岡さんが鉄の鎖で体を結んで柱に結びつけて抵抗したとき、鎖を結んだ相手が北川さんだったというのだ。まったくもって初耳だ。

 中野にあるクラシック喫茶「クラシック」も出てくる。「クラシック」にはつまらない想い出がある。
 学生時代、友人たちと出かけたときのこと。当時、すでに店の床は傾き、歩くたびに床が軋んでいた。かなり破れかけていたソファに座り、文学談義をしていると、いかにもフーテン風のお兄さんがやってきて、隣に腰をおろした。前に流れてくる長髪を右手で耳の後ろに回しながら、左手を上げて「カズミはねー」と語り始めた。当時“カズミ”といえば、それは言うまでもなく作家高橋和巳さんを指す。上っ面の文学論を語り始めたが、どうやら小銭を出してくれという要求だった。
 文学、しかも倫理派の“カズミ”を語って小銭をかせぐ、そんなことをする男も存在する、文学が力を持っていた(?)時代ではあった。

 そう、本書のカバーはジャズ喫茶のマッチ箱で飾られているのだが、本文中には出てこない京都の「シアンクレール」「ダウンビート」「ブルーノート」のマッチ箱が並んでいる。今も残る店は「ブルーノート」のみ。

 というわけで、読んで、見て、楽しいジャズ喫茶物語。

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コメント

ご覧いただき、どうも。
ブルーグラスですか、不勉強で情報を持ち合わせていません。40年以上も、ということはずいぶん聞き続けていらっしゃいますね。
ネットで検索すると、いろいろ記事がありますね。

日本にはジャズ人口が1000万人いるようです。(ジャズが好きな方)この情報は喜ばれるでしょうね。ところで、ブルーグラスに関する情報はお持ちではありませんか?40年以上好きで聞いてますが、あまり情報がないですね。ありましたらよろしく。

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